木樽で熟成させたワインは一味ちがうかも?
洋の東西を問わずお酒というのは貴重なものでしたから、昔の人たちはその保存法にも気を使ってきました。
アジアでは、森林資源が豊富な日本において木の樽なども利用されてきましたが、中国や沖縄では陶器のかめが保存容器として使われています。
紹興酒の老酒、泡盛の古酒などは、しっかり封がされたかめに入れて伝えられてきました。
一方ヨーロッパでは基本的に木の樽が使われています。使われる材質はオーク材が多いようです。
もっとも、欧州でオークと呼ばれているのは一つの木の種類ではなく、ナラやカシなどの総称。ナラは落葉樹、カシは常緑樹なので、日本人とは違い樹木に対してかなり大雑把な認識を持っていることがわかります。
現在でも飲まれている洋酒のうち、紀元前にまでその起源を遡れるのはワインとビール。ワインもビールも、ガラス瓶や金属加工技術が発展するまでは、木樽に保存し、熟成させていました。
ビールはワインよりも劣化しやすいので、ビールの樽というと今では金属製のものばかりになっています。ところが、現在アメリカでは、原点回帰とでもいうのか木樽熟成のビールが人気になっているよう。
ワインのほうは、現在は金属やコンクリートのタンクで熟成されるものもありますが、木樽による熟成を行うワイナリーも残っています。
日本には何事も「昔ながら」のほうがいいというような勘違いをしている人が多く、金属やコンクリートというと無駄に目くじらを立てたりします。
しかし、金属やコンクリートタンクの場合、空気が入りにくいので熟成時に酸化しにくいという利点があります。
一方木の樽で熟成させると、酸化しやすい反面木に含まれるタンニンなどの成分や香りが加わり、純粋なワイン原液だけではできないような味になります。
これはどちらがいいかというような問題ではなく、好みの問題でしかありません。
さて、一口にフランスワインと言ってもボルドーとブルゴーニュワインではずいぶん違うように、樽の規格も違います。ボルドーでは木樽は「バリック」、ブルゴーニュでは「ピエス」と呼ばれています。
いわゆる木樽のイメージにあるような、真ん中部分が膨らんでいる形状は共通しているものの、ピエスのほうがすこし背が高く、細身に作られています。
また、バリックは225リットル、ピエスは228リットルと容量にも違いがあります。
どうして同じフランスで樽の規格が違うのかと思う人もいるかもしれませんが、それは日本の狭さを基準に考えているか、現代社会を基準に考えているかのどちらかでしょう。
度量衡というのは本来地域によって違って当たり前のもの。中国では早くも秦の時代に度量衡が統一されましたが、日本では江戸時代になっても東と西で枡の大きさなどが違っていたりしました。
それらが統一されるためには、国による基準の策定と法律がなくてはいけません。そうしたことがわかっていれば、地域によって樽のサイズが違うことに疑問を持つはずがないのです。
ちなみに、ブルゴーニュでは木樽を「トノー」とも呼びます。そしてなぜか、ボルドーではバリック4個分、つまり900リットルの樽を「トノー」と呼びます。
900リットルのトノーはイギリスでは「Tun」と呼びます。これが重さの単位の「トン」の起源となったようです。
ところで、日本の木樽は杉材などを使って組み立てるだけですが、西洋の木樽は組み立てた後に内側に「火入れ」を行います。かなり盛大に火を燃やして樽の内側を焦がすのです。
ウイスキーの色や香りは、この木樽の焦げから生まれているものだというのはよく知られており、現在では種類によって焦がし方を変えたりしていますが、そもそもは密造酒を木樽に隠していて偶然木の焦げがうつって美味しくなったというのが始まりですから、木樽の内側を焦がすのは香り付けのためではなかったはず。
残念ながら、なぜ木樽を作るときに内側を焦がすかの理由について記された資料は見つけられませんでした。もともとは殺菌や材に潜む虫を殺すためだったのかもしれません。
ワインの熟成に使う木樽も、当然この焦がし処理はしてありました。故に、木樽熟成のワインにも、ウイスキーのように焦げからの色や香りが加わります。
その香りは、バニラだとかコーヒーなどとも比喩され、このような木樽から移った香りのことも「バリック」と呼ぶことがあります。
バリックの香りが好きな人は、熟成に使われた木樽をワイン選びの基準にしてみるのも面白いかもしれません。