いっぱしのワイン通になるにはやはりたくさん飲むしか無い!?
「遊び回っていた福岡県のお寺の庭の土の匂い、ころんだときにつかんだ草についていた土です。石を持ち上げたらカブトムシが死んでいて、その死んだカブトムシの匂いが急に浮かんできました。」
わりと有名な言葉なので、ワイン好きの人ならピンと来たと思いますが、これは日本を代表するソムリエの田崎真也さんが、1995年に世界最優秀ソムリエコンクールで優勝したときの、ワインを描写した表現(の一部抜粋)です。
ソムリエというのは、ワインのスペシャリストであり、客の好みや出される料理に合うようなワインを、自らの知識と舌の記憶によって選び出す仕事ですから、どこまでワインの味や香りを敏感に、詳細に感知できるかが重要なのですね。そして、どれだけそのワインを自らの感性で理解できているかを見るために、コンテストではそれぞれのソムリエ自身の言葉で描写をさせるわけです。
しかし、一般人がワインを飲んで田崎さんのような表現をしてもバカだと思われるだけです。というより、田崎さんご自身もコンクール以外では「カブトムシの匂い」などという表現はしないことでしょう。
毎年『芸能人格付けチェック』という番組が放送され、その中でよく、高級なワインと安物のワインを選ぶという問題が出されます。これを見ていると、大抵は口当たりがよく癖がない、飲みやすいワインを選んだほうが外れです。これは当然のことで、ワインを飲みつけない層が買う確率が高いであろう安物のほうが、日本人に受け入れやすい、単純な味に作られているからです。
ワインに限らずですが、良い物を飲みつけて舌がその味に慣れてからでなければ、その味の真価を理解できない種類の飲み物はあります。例えば中国のプーアル茶なども、良い物を正しい淹れ方で淹れたものを、何度も飲んで慣れてからでなければ、そのおいしさをなかなか理解できるものではありません。そして、値段がはる良いものというのは大抵癖が強いものです。
そのような経験を経ずして、頼んだワインのグラスを眺めてみて「琥珀色が美しい」とか言ってみたり、香りを嗅いでみてトリュフを食べたこともないのに「トリュフの香りが」とか言ってみたり、口に含んで「タンニンの味が」とか言ってみても周囲から「恥ずかしいやつ」と思われるだけ。
フランスでどうかはともかく、ワイン文化が根付いているとは決して言えない日本で、したり顔でワインのテイスティングするのはマイナスのイメージしか持たれないでしょう。
とはいえ、ワインは飲み付けなければ味をわかるようにはなれないお酒だといっても、ポイントを抑えずにむやみに飲んでいるだけではわかるものもわかりません。といってもそんなに複雑なものではなく、抑えるのは色と香りと味の3つだけです。これは日本酒の利酒とそれほど変わりません。
まずワインをグラスに注いだら色を見ます。だからといって無駄に詩的な表現をする必要はありません。色合いや色の濃淡、透明度がどんな感じかを見ます。かつてはワインの中に不純物があったり、混ぜ物などもすることがあったので、澄んだワインがいいワインだと言われてきました。
ただし、最近では日本でもにごり酒が歓迎されているごとく、濾過(清澄)をしていないワインも出てきました。だからワインに濁りを見つけても慌てずにボトルを見てみましょう。「non collage」という表記があったら、清澄作業を加えていないワインなのでむしろ濁っているのが正常です。しかし「non collage」ではないのに濁りがあったら、不純物や異物が混入していたり、ワイン自体が劣化している可能性があります。
次に香りをかぎます。これも別にどんな香りかを表現する必要はありません。どのワインにどんな香りがあるかを、脳に経験させ、刻んでいくのが目的です。
最後に味を見ます。ワインには、渋み、甘み、酸味などが交じり合っており、銘柄によっても作った年によってもその割合は違ってきます。様々なスパイスの味や香りが入り混じったインドカレーも、食べ慣れなければ辛さしか感じないように、複雑な味は慣れないとわからないというのは上記の通りです。
ソムリエやワインの職人が、ワインを口に含んでから空気を吸い込み、ジュルジュルとさせることがありますが、これはそのワインの味や香りなどの品質を確認するための方法であって、ワインを味わうためのやり方ではありません。自宅で一人で飲んでいるときに、そうやってソムリエごっこをする程度ならかまわないと思いますが、レストランでやったら知ったかぶりの素人丸出しの行為です。
いろんなワインをこうやって味わっていけば、いずれ味が分かるようになり、それぞれのワインの個性も理解できて、自分好みのワインや料理との相性もわかってくるでしょう。そこまでいけば、もう一端のワイン通です。的はずれなことを口走って人から笑われることもなくはるはず。
そこまでしたくないという人は、ワイン通ぶるのをやめるしか他ありません。