ワインを作るには日本は狭すぎるという現実

今年も日本は暑いです。30度、35度を超える酷暑を、メディアは毎年異常気象だと言っていますが、平均的に酷暑なんだからもうこれが平年並みです。

「異常なんだからいつか元に戻るはず」なんて無駄な期待はしないことです。

ワインの原料となるブドウは欧州原産で、欧州のような涼しい気候を好みます。また、たくさんの水は必要とせず、水はけのよい痩せた土地を好みます。

だからつまり、ぶっちゃけた話ブドウは日本で栽培するのに適しません。今回はそれゆえに日本のワインがピンチという話。

国産ワインのブランディングが明確に

これまでは「国産ワイン」の基準は非常にいい加減で、輸入ブドウどころか輸入ブドウ原液100%が原料でも日本で醸造しさえすれば「国産ワイン」という扱いでした。

そこで国は新たに「日本ワイン」というブランドを定義。これは100%国産ブドウを使い、国内で醸造されたワインでなければ名乗れません。

また、地域ブランドの基準も設けられました。例えば「山梨ワイン」と表示するためには、山梨県内で収穫されたブドウが85%以上使われており、山梨県内で醸造されている必要があります。

政府はこれにより日本ワインのブランドを確立し、海外にも認知してもらうことで輸出を増やしたい心づもりのようです。

ブランディングによる問題点

ワインに関する明確な定義付けは必要です。例えば「ブルゴーニュワイン」などはブドウの品種まで定められていてもっと厳しいです。

しかし、ブルゴーニュの場合その定義を満たすための条件がちゃんとそろっています。それは必要なだけのブドウの生産量と、それを実現するための耕作面積、そして生産者です。

ところが日本の場合はルールを定めたもののそれを満たすだけの生産量を確保するのが難しい。それは上記のように、そもそもブドウは日本で育てるのに適していないから。

日本のワイン造りの最先端である山梨県では、鎌倉時代から食用ブドウが生産されてきました。それは、ブドウ生産の中心となっている甲府盆地東側が、痩せた土地で年間降水量も少ないため。しかし、そうした条件に合った土地は日本には少ないのです。

欧米のほとんどのワイナリーは、自分たちでブドウを育て、ブドウ自体の品質管理まで行っています。欧州には古くから伝統的に受け継がれてきた広大な畑があるし、アメリカでは広い土地を確保して大規模生産できます。

日本のワイナリーも自社の畑を持っていますが、それだけでは足りず、契約農家に作ってもらっています。

そこにさらに、農業離職率の高さが重なってきます。日本でブドウ生産に適した土地はほとんどが斜面ですから、ブドウ生産農家は斜面で非常に負担が大きい作業をしておられます。

高齢化と後継者不足で生産をやめてしまう農家を責められる権利がある人はいるはずがありません。

欧州の厳格な生産地ブランドルールは、それを守れる歴史、伝統、条件の上に作られている。しかし、日本のルールはルールだけ作ってあとは自分たちでなんとかしろという典型的なお役所仕事。

自転車は車両だから車道を走るべし、ただし、自転車が安全に走れる道路があるかどうかは知らん。というのと同じ。平成の世になっても、日本の役所が作るルールというのは「御触れ」と同じわけです。

なんとか自社農場を作るワイナリー

こうした中、メルシャン、サントリー、サッポロビールなど、国内ワイナリーを持つ大手は自社ブドウ畑の拡大に着手しはじめました。

山梨県にワイナリーを持つサントリーは、耕作が放棄されたブドウ畑を自社の畑として活用していく方針のようです。

農業後継者の不足は重労働と収益の少なさが原因になっていますが、会社組織として畑を運営するならば畑に戻ってくる人もいるかもしれません。

そもそもワイナリーが均質な商品を生産するには、ブドウ自体が均質でなければならないので、原料は全て自社の畑で生産できるのが理想。日本のワイナリーが欧米のワイナリーに近づく第一歩といえるかもしれません。

しかし、日本のワインが世界的なブランドとして認められるためには、今より10倍ブドウが必要だという専門家の意見もあります。それはさすがに無理というものでしょう。

TPPの影響は?

この記事を書いているのは2016年7月。アメリカ大統領はどちらになるでしょうか?どちらの候補もTPPに関しては否定的。クリントン女史は再交渉を求めると言っているし、トランプ氏は離脱まで表明しています。

仮にアメリカ抜きでTPPが発効しても、オーストラリアやチリといった現在でも格安のワインを輸出している国があります。

いずれ関税が撤廃されるTPPでは、日本ワインの輸出に追い風になると言っている人もいますが、この人は生産量というものをわかっているのだろうかと思いました。

結局のところ、日本ワインは生産量が限られ、国内では大量の安い輸入ワインに押され、輸出量も増やせず、相当の苦境に立たされるのではないかと思います。

だったら、無理にワイン作らずに日本酒の生産を増やすってわけにはいかないんですかね?

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