ワインのボトル形状から見える歴史とその機能美
ワインの歴史は非常に長く、最低でも1万年以上昔、石器時代にはすでに飲まれていた痕跡が見つかっています。人類が文字を発明した時には、すでに当たり前のようにワインの文字が記されていたと言われます。
そんなワインにガラス瓶のボトルが発明されたのは17世紀、江戸時代のころでした。
それまでワインは、素焼きの甕(かめ)(アンフォラ)で保存していたそうでが、このガラス瓶の普及によって保存性が非常に高くなり、また同時に醸造の技術も進歩して、ワインの品質が格段に向上したのです。
それから4世紀、ワイン全体の歴史に比べれば短い期間かもしれませんが、この期間にも各国でさまざまなボトルの形が生まれています。
ドイツワインのように、白鳥のようにすらっと首の長いもの。南フランスのプロヴァンス地方のように、胴体がくびれた女性的なボトル。イタリアワインのキャンティは丸っこく、洋なしのような形をしています。正月飾りのような藁のコモで、胴体の部分をすっぽり覆ってあったりします。
こういった特殊な形状のものは、それぞれの産地を特定する目印として使われはじめたものです。
また、キャンティのコモも、本来は行商人がワインを輸出する際に、ロバの背中にくくりつけて運びやすくしていた名残なのだそうです。
テーブルに置いてもインテリアのように優美な他のボトルに比べて、ボルドーのワインは「いかり肩で細長いタイプ」がよく見られます。これはボルドーワインが、長い熟成を経ると大量の澱がでてしまうために、このような形が好まれたのです。
グラスに注ぐ際に、いかり肩の部分で澱を食い止めるために工夫されたのだそうです。
ボルドー以外の産地でも、ブドウ品種がボルドー由来のものだった場合には、それを示すためによく使われています。
カベルネ・ソーヴィニヨンや、メルローなどを使ったワインが代表的です。
瓶の底へ目を向けると、さらにもうひと工夫が隠されています。
外側から内側へ向かって、半円状にぼこっと盛り上がっているのですが、これも、ワインを注ぐときに、沈んだ澱が舞い上がりにくくするために、水流を分散する効果があるのだそうです。
デザインよりも、長期の熟成を前提として、実用性を重視して生まれたのが、ボルドーのいかり肩のボトルなのです。
しかし、一方でブルゴーニュワインのボトルを見てみると、「なで肩で底面積の広いタイプ」が多く見受けられます。
ブルゴーニュ産のワインは、澱が細かくて、量も少ないのが特徴です。
なので、いかり肩の瓶である必要は少ないのです。ボトルを箱に詰める際に、首と胴体を互い違いに積むことで、よりたくさん入る機能的なデザインなのです。
そもそも、ブルゴーニュ産のワインは、ボルドーほどの長期熟成を見込んで造られたワインではなく、どちらかというと毎日の食卓で楽しむ事を想定したワインなので、澱のことを気にする必要はないのです。
横に寝かせて保存をすることよりも、卓上に縦においたときに優雅に見えるよう、エレガントななで肩のボトルになったのだそうです。
現在は、高級感を出すために重量瓶を使用したり、飴細工のような、独特のフォルムの瓶を使用して、テーブル上を華やかに彩るワインも珍しくありません。
産地によって異なる、個性豊かなボトルの形状も、ワインを楽しむ要素のひとつと言えるでしょう。