不思議な名前のワイナリーに魅せられて
30歳目前、私はかねてから希望していた語学留学先に、ニュージーランドを選びました。語学学校の場所も、今思えば、その時からワインとの縁が繋がっていたのでしょう。
そこはニュージーランド国内でも有数のワインの産地、ホークスベイ・ネイピア。街の中心地を少しでも外れると、ニュージーランドならではの牧草地と、広大な葡萄の木立。もちろん学校の回りもワイナリーが点在して、ワイン好きにはたまらない環境です。
私がワインの虜になったのは、そんな学生生活を送っていたからではなく、実は卒業後の小旅行中。せっかくだからと、一箇所のワイナリーを訪れたことから始まります。そこのワイナリーの名前は訳して「蟹の養殖所」とでも言うのでしょうか。およそワインを思わせる名前ではなく、単純にシーフードが食べられるレストラン、そんな認識で訪れたのです。
しかし、そこはれっきとしたワイナリー。想像していた併設レストランではなく、純粋にワインを扱うお店でした。戸惑いながらも、テイスティングさせてもらったカベルネソーヴィニヨンは思いのほか飲みやすく、でも、独特の重厚感、渋みがあり、折りしも真夏で喉も乾いてお腹も若干空いていた自分にはぴったりの味・香りだったのです。
そこでの出会いから、私は他のワイナリーにも興味を覚え、実際に足を運んではテイスティングをする日々。そして、その都度店主からのジョークを交えた葡萄の木、ワイン、そしてワイナリーの歴史に、感銘を覚えたものです。
今でこそ日本ででもニュージーランド産ワインを入手することが出来ますが、あのとき私が恋に落ちたに等しい味は忘れられません。