ある若き青年実業家のワイン愛から生まれたビジネス。すべての人にメリットありの「ワインルーレット」とは?

「不良在庫」というものは、販売業にとって最も深刻な悩みの一つといってもいいでしょう。

売れ残った商品は年数を経るほど価値がどんどん下がります。

賞味期限のある食品ならなおさらです。

賞味期限が長いとされるワインも例外ではありません。

米カリフォルニア州のナパ・バレー、ソノマ産のワインなど、希少価値の高いものでも生産した分だけ売れるとも限らず、在庫分は値下げせざるを得ない状況もあるといいます。

できるだけ不良在庫が出ないようにしたいものですが、農産物であるブドウの生産量は毎年変動し、売れ行きの傾向も毎年違うでしょう。

生産と販売のバランスを保つのは、非常に難しいのです。その弱味に付け込んだ業者が、高級ワインを不当に安値で買い取ってしまう危険性もあります。もしもそれが毎年のように続けば、ワインが値崩れを起こしてしまう可能性があるのです。

一時的に安くなることは消費者にとってメリットではありますが、ワイナリーの経営に影響が出てしまえば本来価値のあるワインの品質を保てなくなるという事態に発展するかもしれません。

それはやがて消費者側のデメリットにもつながります。

そんな問題を目の当たりにした1人のアメリカ人青年が、愛するワインを守るため、立ち上がりました。

●ワインを愛する青年によるワイナリーを守るための戦略

青年の名は、ジュフリー・シャウ。

20代にして「アンダーグラウンドセラー」というワイン販売サイトを創業した人物です。元はエンジニアでしたが、自身の勤めていた会社が倒産したのを機に大好きだったワインの勉強を始めます。そこで目の当たりにしたのが、売れ残りワインの買い叩きという現実でした。

ワインビジネスの将来を悲観したシャウ青年は、なんとか不良在庫になる前のワインを売り切る方法を考えます。そこで彼は数人のチームを結成し、数本のワインが入った「ワインセット」を販売することにしました。

それはただのワインセットではなく、購入者によってセット内容が変わるという独特のもの。日本でいえば「福袋」のようなものでしょうか。確かに、購入金額以上の価値の商品が入る可能性があるという点では福袋と相違ないかもしれません。

しかし、シャウ氏が考案した方法は、もうひとひねりあるようなのです。

●ゲーム感覚で選べる「ワインルーレット」

「アンダーグラウンドセラー」では、毎日数種類のワインセットが展示され、購入希望者はその中から好みのものを選びます。購入者自身が中身の種類を選ぶことはできず、選べるのは本数のみとなります。

売り切れ次第販売終了なので早い者勝ちです。

ここまでは福袋と似ていますが、違うのはここからです。

購入者が選んだワインの一部が、高級ワインにアップグレードされる可能性があるのです。たとえば、3本買えば1本、10本買えば5本と、本数に応じてその対象本数も変わります。

アップグレードの確率は固定ではなく毎日変動するということですが、ほとんど5割程度の確率でアップグレードの可能性があり、購入者にとってはゲーム感覚で買い物をすることができるのです。

ここでアップグレードのワインとして使われるのが不良在庫になる手前の高級ワインなのです。

このような形で売れ残るかもしれない高級ワインを利用出来れば、大きく値下げすることなく仕入れることができ、ワイナリー側の負担も少なく、購入者側にはお得感があります。

惜しくもアップグレードが外れた購入者は、再度の購入でアップグレードを狙うこともあるのだとか。

購入する側はゲーム感覚で楽しめ、ワイナリーはダメージが緩和でき、販売側は儲かるという、全ての人が幸せになる仕組みです。

●「アンダーグラウンドセラー」の顧客サービス

この「アンダーグラウンドセラー」は、試験販売の時点で50万ドルを売り上げ、それがきっかけで多くの投資家の注目を集めました。その結果100万ドルもの資金調達ができ、ワイン市場の中で大きく成長することができたのです。

そして今なお成長し続けています。

それは、以下の「顧客サービス」に秘密があるようです。

1)ワイン保管サービス

「ワインルーレット」で購入したワインは基本的に「まとめ買い」であり、すぐには飲むことができない場合もあります。熟成させたいビンテージワインがアップグレードで当たることもあるでしょう。アンダーグラウンドセラーでは、通常の家庭で保管が難しいワインを保管してくれるサービスがあるのです。

自宅にワインセラーがなくても心配がありません。

ワインの保存に適した気候であるカリフォルニア州のワインセラーに5ドル程度で保管できます。

顧客のニーズを第一に考えるからこそのサービスですね。12本以上では保管料が無料となること。多く買えばそれだけのサービスを受けられるというところも理にかなっています。

2)ワイナリー招待イベント

カリフォルニア州ソノマのワイナリーに招待し、その場でワインを味わってもらうイベントをプレゼントするキャンペーンなど、顧客への感謝を込めた企画をしていることもあります。

購入する人々に感謝の気持ちを形にしお返しするというところが、顧客の心を掴む理由のひとつかもしれません。

●「ワイン愛」から生まれたビジネス

「ワインルーレット」はもともと生産者の「不良在庫」という課題から生まれた発想です。

「不良在庫」が購入者の「ゲーム感覚でおいしいワインを買える」というメリットにつながり、それが販売する側の売り上げアップにもつながっています。また、「アンダーグラウンドセラー」はスタッフがテイスティングして選定したワインのみを販売しています。

中身の分からない「ワインルーレット」で購入しても、いわゆる「ハズレ」はないのです。

味には多少好みもあるかもしれませんが、少なくとも、粗悪品のようなものは一切入っておらず、安心して購入することができるのです。

誰かが儲かれば誰かが損をするというようなビジネスではなく、生産者、販売者、購入者すべてが幸せになれるこのようなビジネスモデルは、多くの経営者の見本となりうるものではないでしょうか。

そして、「本当においしいワインをおいしく飲んでもらいたい」という、シャウ氏の大きな「ワイン愛」が根底にあるからこそ生まれたビジネスモデルなのでしょう。

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