ワインの生産者とワイン造りに対する哲学
石器時代にワイン造りが始まった当初は、収穫したブドウを集めておけば勝手に発酵してくれる、といったものだったようです。
しかし、この状態では飲み物としての完成度は低く、おいしくありません。
ワインが熟成するのといっしょに雑菌も繁殖して、味も雑味が多く、香りも不快なものになるのです。おいしいワインを造り出すには、造り手のとても難しい技術が必要とされていました。
ワインの造り手とは、ここではワイナリー(ワインの醸造所)をさしたり、または、実際にワインを造る人物を指します。
ワイナリーの呼び方は、国や地域によっても様々です。
同じフランス国内でも、ボルドーでは「シャトー」、ブルゴーニュでは「ドメーヌ」などと言ったりします。
いずれも、ブドウ栽培から醸造、そして壜詰めまでを一貫して行う生産者の事を指す言葉です。
ボルドーでは、所在の地名をとって「シャトー○○」という家名を名乗り、これをワイン名にしています。またブルゴーニュは地名ではなく造り手の姓をとって「ドメーヌ○○」とすることが多いようです。
シャトーは、もともとは『城』という意味で、ブルゴーニュは、『領地』という意味です。
どちらもクラッシックな雰囲気のある言葉ですが、お互いのワイン造りへのこだわりの違いをあらわしているとも言えます。
もうひとつ、こだわりをあらわしている、といえるのが、これらとは分けて言い表されている、「ネゴシアン」というワインの造り手の呼び方です。
ワインの造り手には、大きく分けてふた通りが見受けられます。
シャトー、ドメーヌと名乗っている、醸造所の他にも、専用のブドウ農園を有して自らブドウを栽培するような、大きな造り手。
そして、他のブドウ農園から仕入れた原材料(ブドウ)から醸造を行う醸造専門のワイナリーです。
後者は、特にブルゴーニュではドメーヌに対して、ネゴシアン(卸売業者)と呼ばれています。日本酒やビールではそう珍しくもない、ごく一般的な醸造所がこちらですよね。
しかし、前項で述べたように、ワインはブドウ造りがとても重要な飲み物です。
造り手は、自分の納得のいくワインを造るために、納得のいくブドウを何十年もかけて育てることが重要だと考えています。
ワインの味はそれほど複雑で、そうした作り手のワイン造りに対する哲学というものが、味にまで反映されたりもするのです。その他にも、シャンパーニュでは特に大規模メーカーの事を「メゾン」などと言ったりします。
他にも、アメリカでは『土地』という意味の「エステート」、スペインでは『酒蔵』という意味の「ボデガ」、イタリアでは『家』という意味の「カーサ」、など、その土地によって様々です。
畑ですべてが決まるワインですが、そのどれもの味に個性があり、またワインに対する考え方が違います。
私たちが、どの造り手の好みと共感できるかは、それこそ飲んでみないと分かりません。
最高品質が最高においしい、というわけではないのだ、ということは覚えておいた方がいいでしょう。