フランスの語源は自由(フランク)、ワインの飲み方も自由?
それでは、ワインの本場フランスでは、いったいどのようなワインが飲まれているのでしょう。フランスと言えば、世界最大のワイン生産国であり、同時に、世界最大の消費国でもあります。
つい20~30年前まで、フランス人は1人当たり年間125本くらいのワインを飲んでいたそうです。しかも、これは当時の全人口で割ったで、女も子供も人数に含めてこの数です。
ワインの本場なのだから、さぞ良いワインを飲んでいるのだろう、と思いがちです。
しかし、フランス人はもともと締まり屋で、一見華やかに見えるパリっ子もその例には漏れません。彼らは毎日のように飲むものに、そう高いお金は払えないからと、賢い主婦のように、安いワインをできるだけ安く手に入れるのに熱心です。
大生産地帯のアルジェリアや、今は南フランスのミディ地方のワインに注目しています。
最近、この酒量がかなり落ちてきている、と言われていますが、しかしそれでも彼らが日々飲む量が多いのには変わりありません。パリの安レストランなどを覗いてみると、東洋から訪れた我々異邦人ですら顔をしかめるような粗悪なワインを、平気で飲んでいる人達もいます。
アメリカとヨーロッパでミリオン・セラーになった、『フランス・ワイン』の著者、アレクシス・リシーヌは、「フランス人の間で、ワインを飲むルールなどない。ひとつだけあるとすれば、彼らは高いワインを飲まないことだ!」と喝破しました。
そんな筈はない、安ワインを飲んでいるのは庶民だけ、フランス料理を食べるような中流・上流階級は、毎日高級ワインを飲んでいるはず、という風に思いがちですが、実は彼らも大して変わりません。
普段は安レストランよりややましといった程度の、ほどほどの質素なワインを飲んでいます。
ワインのプロである酒商の家でも、自社製のワインを飲んでいたり、相当リッチなネゴシアンの家庭でも、いわゆるグラン・ヴァンだけを日常的に飲んでいるのではありません。
もちろん、大切なお客を招いた時などは別ですが、普段飲むワインは私たちが想像している以上に質素なものなのです。
しかし、フランス人のワインに対する接し方は、あくまで自然体というべきものです。彼らは安いワインを決して「まずい」と思って、我慢して飲んでいる訳ではありません。
そこには私たちが普段好んで飲むお茶と、玉露のような違いがあるだけなのです。
そんなフランス人の自由なワインの飲み方にも、この数十年で大きな変化が起こっています。実は、フランスではここ数十年でワインの全体的な消費量が減少してきているのです。
夕食時にワインだけではなく、ウィスキーも飲めば、ドイツビールも、ピザとコーラも、ペットボトルのお茶も飲むようになったのでしょう。
こうしてワインの全体的な消費量が減少したのに対して、AOCワイン(原産地名呼称管理制度で保証されているワイン)の中級から上級ワインの消費量が次第に増えてきています。
これは、消費する量が減るかわりに、特別な祝い事の為になるべく良い物を選んで飲むようになった、という事であると思われます。
世界の食生活は、このように次第に均質化してきていると言えます。
フランスのみならず、イタリアやスペインなど、ワインの大生産地国、大消費国でも、このような傾向は見られます。
しかし、ワインを生産する地方だからこそ、自分の身の回りにあるものを飲んで暮らすのは当たり前。日本のワイン・ショップのウィンドウに並んでいる高級ワインなど、むしろ飲んだことのない人の方が普通なのです。
彼らは自分たちが飲んでいるものを「通常(オーディナル)ワイン」、「日常ワイン(ヴァン・ド・タープル)」と呼んで好んでいます。
そしてワイン造りの親爺達は、誰もが自分の作るワインが世界で一番うまいと本気で信じています。
日本で言うと手前味噌を褒める、のような話ですが、これは、ワインが嗜好品である事と、「味覚の慣れ」というものが生じる事が関係しているといえるでしょう。