和食とワインって無理に合わせる必要あるの?

洋の東西を問わず、酒というのは原料の糖をアルコールにするという過程を経て作られます。その過程をアルコール発酵と呼びますが、アルコール発酵には酵母と呼ばれる菌類の働きが欠かせません。

日本酒の場合、原料の米に含まれるデンプンはそのままではアルコールにはならないため、まず酒麹を使って糖に分解。そして、さらにその糖を清酒酵母という菌類がアルコールに分解。

一方、ワインの場合は原料のブドウに最初から糖が含まれているため、糖に分解する過程は必要なく、直接酵母によってアルコールに分解。

さて、日本酒とワインというまったく違う酒ですが、実は糖をアルコールにしてくれるのは、同じサッカロミセス・セレビシエという酵母。

同じといっても、実際にはサッカロミセス・セレビシエには非常に多くの種類があり、日本酒に使われるサッカロミセス族はセレビシエとは違うという主張もあります。

その辺りの分類は専門家に任せるとして、ワインも日本酒も、この酵母の種類によって香りが変化します。要するに原料が同じでも酵母の違いによってできあがった酒の個性が変わるのです。

島根県の島根ワイナリーでは、甲州種のブドウを原料として、日本酒用の清酒酵母を使って醸造したワインが発売されました。ワイン用だろうと日本酒用だろうと、酵母が糖を分解する仕組み自体は同じなので、逆に日本酒を作るときにワイン用酵母を使っても酒はできるはず。

島根ワイナリーはこの清酒酵母で醸造したワインを、柔らかい味わいで和食と相性抜群だとアピール。

試みとしてはおもしろいとは思うんですが、そもそも和食とワインって合わせないといけないものなのかという疑問も湧きます。和食に合わせるには日本酒という素晴らしい酒があるじゃないですか。

確かに日本では、ワインは和食と合うかどうかという文脈で語られることが多いもの。

しかし、この異常に選択肢が多い日本において、ワインを飲みたいのであれば、わざわざ和食を食べに行かずに、フランス料理でもイタリア料理でも食べに行けばいいでしょう。

要するに、和食と合うワインというのは、和食を食べに来ておいてワインを飲みたいと要求するお客に合わせなければならなくなった、和食のお店のために作られたようなもの。

これはつまり、南インド料理の店でもナンを食べたいというお客のために、タンドリーを設置しなければならなくなったみたいな話ですよね。

これ、和食に対してもワインに対しても日本酒に対してもリスペクト(尊敬)がないから、平気でそういう要求をするのだと思うのです。そういう意味で「和食に合うワイン」というのは現代日本人を象徴したものだと思えますね。

関連記事

ページ上部へ戻る